「・・・んっ・・・ね、しゃーろっく」
「・・・・なんだ。」
「跡、つけないでね。」
「何故。」
「いや、明日もハイネック着て行くわけにいかないから。」
「別にスーツでも構わないだろう。」
「スーツ着たいのにシャーロックが跡つけるから!!!」
「何が問題なんだ。」

ベッドの上で問答。
横になっていたけれど、シャーロックの肩を押して、ベッドの上に座る。
できるだけ自然な動作で降ろされたキャミソールを戻しながら。
シャーロックは至極真面目な顔で向かい合わせに座った。
上半身裸の男はいつもみたいに眉間に深い皺を寄せる。行為がストップして不機嫌な証拠。

「シャーロック?跡、付けてもいいけど、見えないところにしてね、って言ってるの。」
「だから、なぜ。」
「な、う・・だ、だって人から見えるしょ」
「何が問題なんだ。」
「は、ず・・・・恥ずかしいじゃん!!!!」
「僕は恥ずかしくないし、が僕の物だっていう証明になる。むしろ、消える前に上書きしたいぐらいなんだが。」

こんな言葉を無表情で恥ずかしげもなく言ってのける男なんだ・・・・
くそう・・最近まで童貞だったくせに・・!!!
最近までキスするのにもちょっと抵抗してたくせに!!!!
一歩踏み出すと、もうそれは当たり前かのように接してくる。怖い。この男怖い。

?続き始めても?」
「駄目!まだ話終わってないの!」
「なんなんだ。。」
「やだ!触らないで!」

駄々をこねる子供のように胸の前で枕を抱きしめる。
抱き寄せようとした長い腕は行くあてもなく再び降ろされた。
私は枕を抱きしめたまま、壁まで移動。
なんだか、私が慣れてないような感じになってる・・・そんなことないのに!
壁には日本語で書かれた賞状が飾ってある。なんか、読めないけど何かの免許皆伝?したときのものらしい。

「・・・・・・・。」
「駄目、子犬みたいな目しても、駄目。」
、じゃあキスだけ。」
「・・・・だめ・・・なんで、そう適応力が高いの・・・」
「天才だからだろ。」

寄せられた唇に抵抗できるわけでもなく、受け入れてしまう辺り、やっぱり甘いんだろうな。
そのまま、ゆっくり枕が取り払われる、けれど意識を分散できるわけでもなく
抱き寄せられて、安心してしまう。人肌っていうのは卑怯だ。

、」
「跡つけない?」
「嫌だ。」
「じゃあ駄目。」
・・」

珍しい。シャーロックがここまでベッドの上で駄々をこねるなんて。
どっちかと言えば『そういうこと』に対して淡白な人だ。
ほんとにジョンとは間逆をいくなぁ

「・・・・・・・・。」
「はい。」

シャーロックの膝の上にいて、首元にぐりぐりと頭を押しつける。
表情は見えないが、声はさっきと打って変ってちょっと怒ってる感じ。

「誰の事を考えた、今」
「シャーロック、とうとう超能力も使えるようになったのね。事件解決の幅が増えるね。」
「話をすり替えるな。」

怒らないで、と頬にキス。このままなし崩しに出来るかもしれない、やったぜ。
別に、明日はスーツで出社しなきゃいけないわけでもないし、プレゼンみたいに大勢の前に立つわけでもないけど
でも、どこかで言っておかないとシャーロックは、適応力が、高いらしいからね!

・・・」
「んー、なぁに?・・・わっ!」

突然、ひっぱられてベッドに押しつけられる。
頭上のシャーロックはしてやったりと顔を輝かせている。
むかつく!!しおらしいのは演技か!わかってたけど!!!わかってたけどさ!!!

「シャーロックのばか!」
「馬鹿じゃない。それは悔しくて出た言葉だ。」
「分析していただいてありがとうございます!!」
「もう、続きしてもいいか?」
「だめって・・・んっ・・・ちょっと、や、どうして・・ちょっと、今日は積極的ね。」
「君が欲しい。」

耳元でささやかれた言葉とこの子犬みたいな瞳に見つめられて、ストップをかけられる女がいるだろうか。
惚れた弱みがっつりつかまれちゃってる・・・・甘やかしちゃ駄目だと思ってても
キスやらキャミソールの裾から入ってきた冷たい手やらに意識が持って行かれて、
反撃の言葉が思いつかない。結局、そのまま押し切られてしまった。

+++++++

鏡の前でため息。
春も近いロンドン。まだまだ寒いけれど、そろそろハイネックはいらないかなーって感じの空気。
なのに、私は今日もハイネックを着て、仕事に出かける。
今日がスーツ着て行かなきゃいけない日じゃなくてよかった。本当に。本当に!!!
共同スペースには、シャーロックが座って新聞を読んでいた。

「行ってきます。」
「・・・・ああ。」
「怒ってるからね!」
「ああ。」
「笑うな!!!」
「笑ってない。」

ジョンはまだ起きてない。
ジョンは、優しいから気付いても黙っててくれる。時々茶化すけど・・・。
でも気付いた時の反応は隠せてない、全然。本人は隠してるつもりなんだろうけど明らかに動揺してるのが丸わかり。
小刻みに揺れる新聞を睨みながら、今日も221bからの出勤です。